ぶちこわされましたけど、たった一つ最後の最も強い望は私の満足するだけ又それ以上なものになって私の前に展がって行って呉れました。
 白百合の様な姿とダイヤの様なかがやかしい貴い気持をもったリジヤ姫、男獅子よりも強い忠僕のウリセス、ラクダの様な猿の様な狐の様な鼻まがりの悪党のチロポンピヤ、ビニチュース、ネロ、ペテロ、そうした人達の間に生れて来る大きな尊い芸術的な悲劇の中に私の心は段々ととけこんでしまいました。
 自我の享楽のためにローマの古いいくたの歴史の生れた市を火にしてその□[#「□」に「(一字不明)」の注記]に薪木からのぼる焔に巨大な頭をかがやかせ高楼の上に黄金の□□□□[#「□□□□」に「(四字分空白)」の注記]の絃をかきならして大悲劇詩人の形をまねて焔の鬨の声とあわれな市民の叫喚の声とをききながら歌うネロの驕った紫の衣冠はどんなにかがやき、その心はうれしさにどんなにふるえただろう、私はそう思ってどうしていいか分らないほどの感じに足の先から頭の先まで波立って居ました。
 この上なく、一寸さわるとはちきれそうにしなった気持、純な感情のどれほど私の顔の上に表れて居るかって云う事は自分で
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