? 私こわくってしようがない」
「何故って分らないの、お墓は人間が限りない長い間、棲んで居なくっちゃならないうちじゃないの、人間が空気を吸ったり吐いたりして居た時よりも倍も倍も長い間ネ」
「貴方は墓すきなのネ、キット、だからこんなに私をいじめてよろこんでるんだ」
「好キだワ、そりゃあ、しゃべって働いて食べて居た時よりも石になるとその倍も倍もの意味があるから……」
「私そんなことはどうでもいいから、早くよそに行きましょうよサー」
「いや、日が暮れてもここに居るワ、私の帰りたくなるまで……だけど私、貴方がすきなんだからいい」
私達はいつの間にか歩き出してこんな事を云いあって居る。お敬ちゃんはたまらなくこわそうに、私の手につかまって、下駄をひきずって歩いて居る。
「私達はもうじきに別れ別れになる時が来るんだ、キット、今日はその前兆に違いない様に思われる」
お敬ちゃんは年をとった様な声で云った。
「エエ、別れ別れで居たものがこうやって一緒んなったんだから又別れ別れになる事はあるかも知れないがまだなかなか私の死ぬその時までは大丈夫だと思ってる。私お敬ちゃんがすきなんだから……エエ、そりゃあ大好キなんだから……」
こんな事を云う間お敬ちゃんは淋しい目つきをして私を見て居た。
私は私を真面目に見てて呉れる人をこんないたずらをしちゃあすまない、斯う思われて来た。かまわない今日一日は自分で自分の心がどうにもならないほどにいじめぬいてやる。私は自分の気持をジーッと見つめながら斯う云った。一寸たちどまって又歩き出した。
二人は手をしっかりにぎりあって居る。その指先にはお互のかすかなふるえがつたわって居る。早足にトットッと歩いた。
お敬ちゃんはもうどうなっても仕方がないと思い、私は只あるいてさえ居ればいい、斯う思って居る。いくつもいくつもの細い道を曲った。そのたんび二人はもと来た道をふり返りふり返りして居た。
私の心ん中は妙にかちほこった様なこんじょの悪い力づよさがこもって居る。
お敬ちゃんは私のためならどんな事でも、と云う様なすなおな「マア」と声を出したい様な様子をして居て呉れる。そんな様子を見た私は段々むなしい気もちになって来た。けれども「何! 何! 今日一日私の心をいじめてやるんじゃあないか」斯う思って奥歯と奥歯をしっかりとかみ合せた。そうして又歩きつづけた。
一足
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