にされたって、やっぱり何ともない様なかえって愉快そうな笑いがおをして暮す人間なんだから、私は友達なんかなくったっていいんだ、本さえあれば。友達に、しかも並々のより一寸仲よくした位の友達にそむかれたって、泣きっつらをするほどのいくじなしじゃあない。
私はまけ惜しみづよい自分を不思議に思いながら、やっぱりまけおしみづよくこんな事を考えた。
「どうせ――どうせ」
斯う思って居るうちにちゃっこい人を馬鹿にした様な涙が、ポロポロと意気地なくこぼれた。
「そいでもやっぱり涙をこぼすワ」
私の一方の何でもをひやっこい目で見て居る心がささやいた。
「アア、アア」
K子の心のそこにまでふき込んでやりたいと云う様に深い溜息をついた。
目をつぶって手を組んで、私は出来るだけ頭をもちゃげて――丁度我ままに育てられた放蕩息子が、母をくだらない事でビリビリさせて居る様に私の心を何かとっぴょうしもない事をしでかすまいかしでかすまいかと案じさせるかんしゃくをおさえた。
目をつぶった前にK子の笑いながら私の心を掠め奪って行った様子やHの丸い声や、M子の内気らしい肩つきなんかがうかんで来た。
フイと目をあいた時、おそろしい力でとうてい私のおさえる事の出来ない勢でかんしゃくの虫があばれ出した。私は歯をくいしばったまんま、ツイと手をのばしてわきにたて廻してあるはりまぜの屏風のうらをひっかいた。浅黄色の裏は、
「ソーレ」
と云った様に白いはらわたをむき出した。
千世子のどうしようもないかんしゃくを、嘲笑う様にあさぎのかみはヘラヘラヘラとひるがえってペッタリとはりつくかと思うと、パカンと口をあいて千世子の心をいじめぬいたあげくだらんと下ってそのまんま死んだ様に動かなくなった。
私はそれを目をはなさず見て居た中にそのひるがえる毎にKのあのふくみごえの笑いごえが交って居る様に思えた。
「HさんとMさんと母さん」
私はなげつける様にどなって、ひやっこいたたみの上につっぷした。
こぼれ出る涙が畳の上に涙のうき島をつくって、そこの女王に私をしてくれる様に思ってうす笑いながら私はなきつづけた。
雨の日
外はシトシトとけむる様な雨が降って居る。私とお敬ちゃんは、紫檀の机によっかかって二人ともおそろいの鳴海の浴衣に帯を貝の口にしめて居る。紺の着物の地から帯の桃色がういて居る。
「ほんとう
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