やすい大きな兎と蛙とお獅子のをふくろに入れてもらいました。
 それを二本の指でつまんで小供げな様子であの仲店の敷石の上を羽二重の裾を気軽らしくさばいて二人にかるい調子で話をしながら歩いてかなり混んだ電車にのりました。一番はじっこにむずかしい顔をして額を押えて居た四十位の商人は私の大きくくった袂をぎごっちなくひっぱって自分のわきのすき間に腰をかけさせてくれました。私はその男のかおを一寸見てすぐ、
「私を私の年以上の女だと思って居る」
 こんな事を知って悪がすこい笑いを心の中にうかべました。そうしてそのせまっこいところに座って窮屈な思いをしながらもまだすましたとりつくろった顔をして白いうすい紙を通してとんだりはねたりの色や形を思って居ました。
 二つほど停留場を行った時に一人間の悪そうなかおをしてのった十九許りの制服を着て居ながら学生らしくない書生が私の前に一つあいて居たつり革にぶらさがりました。私は今まで少しゆるんだ心を又キューとはって、前よりも一層つくろった憎らしいほどすました様子をしました。
 その男は油ぎった何とも云われないいや味な様子をして軽いカーブを廻る時、一寸止った時、そんな時わざわざよろける様にしては私のひざを小突まわすその意味が恐ろしいほど私に分りました。
 私はその男の心をすっかりよみつくしてしまった様な顔色をして正面を見つめた眼をうごかしませんでした。そうして一寸さわったり小突いたりするたんびに、それよりもつよく目立つほど私は動[#「動」に「ママ」の注記]をうごかしてその男の私のそばによれない様にして居ました。
 こんな事のあるのも浅草だから――私はあきらめた様にこんな事を思って居ました。
 私が山下で降りるまでその男は私の前を動きませんでした。男の動かないと同じ様にそのどんづまりまで女王の様なツンとした態度をゆるませませんでした。
 電車を降りて車にのった時、私はその男に勝った様にあの男の時々したうだうだな様子を思ってうす笑いをしました。
 三年振りで行って見た浅草の町の空気の中から私はいろんな今までとまるで違った感じを得たんでした。
 私のほしいと思って居た浅草提灯はなく、三年前頃までのあすこの空気とまるで違った、前よりも一層なつかしみのない三年に一度位行く筈のところの様に思われて居ました。
 銀座の町のすきな私は、浅草の町に行ったと云う事が恋
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