とにそうよ! 何といっても私には生れた処ですものね、きっといい工合だと思うわ、そうお思いにならなくって?」
「そうあるべき筈だね。――」真木は、疑わしそうに云った。「が、とにかく一人で行くと定めていたってしようがないから、一寸×町へ行って都合を伺ってきたらいいだろう――僕は父親へ手紙を書いてしまうから……」
「そう?」ゆき子は、すぐ立ち上って「それじゃあ、すまないけれど、お父うさまに、訳を云ってあげて頂戴ね。そう出来れば、私ほんとに嬉しいわ」
ゆき子は、いそいそとして×町へ出かけて行った。
そして、まだ電気の来ない、夕暮のざわめきの通う小部屋で、母に、自分の世話になりたいことと、夜だけ書生に来て貰いたいこととを頼んだ。
寿賀子は、殆ど予想以上に欣《よろこ》んでそのことに賛成した。
「結構だとも! いつからでもいらっしゃい。――だが、まあよく来る気になったものね」
彼女は、夕闇の中で、裁ち物を片よせながら、嬉しさから罪のない陽気で、娘を揶揄《からか》った。
「それで……どの位行っているの?」
「大抵十日位でしょう。学校が直き始るから、どうせ長くは行っていられないのよ」
「短くてお
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