木に、一種の暗い直覚を与えていた。不愉快などという単純な言葉の約束以上の感じが、寿賀子と真木との間には潜在していたのである。
ゆき子は、決してそれを知らないではなかった。
が、今、あらわに、不同意の色を示されると、彼女は、それをそのままには肯いかねた。それほど「×町へ行ったらばこそ!」という希望は彼女にとって清新な輝かしいものだったのである。
ゆき子は、暫く黙って、良人が考をまとめるのを待った。後、
「いけなくって?」
と訊き返した。彼女の声と眼差しとには、何か「いけない」とはいわせない力が籠っている。
真木は、
「若し貴女が考えて見て、その方がいいと思ったら、勿論そうした方がいいだろう」と云った。
「それで、ここはどうするつもり、矢張り依田君に来て貰う?」
彼の調子は、クライシスを通り過ぎた平穏さに還って来た。ゆき子も、自ら和らがずにはいられなかった。
「それで好かないでしょうか。どうせ二人行くにしてもそうするつもりだったのですものね。――郵便や何かは、朝×町へ帰る時持って来て貰えばいいわ」
「ふむ――じゃあ、まあ、兎に角そうして御覧。若しそれでうまく行けば結構だ」
「ほん
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