に、よそのお母さんは羨しいね。どうしてああ安心してしまえるんだろう。私なんかは、到底、嫁に遣ったからって、それなり構わずに安心してなんかはいられないがね。……却って、苦労になるようなものだ……」
と述懐する通り、全く、寿賀子は娘を手離さなければならないことに激しい不安を感じているのだ。
「絶間ない自分の感化や、注意や指導は、もう何といっても、直接には及ぼさなくなる。――それで、ゆき子が真直に、愛すべき発達をなし遂げられるだろうか?」
従って、彼女が言葉から、素振りから、ゆき子に与える暗示が如何なるものだかは、ほぼ想像し得るものであろう。
この関係を、他の一面から見ると、そこには明に、真木に対する不信任が認められずにはいない。
率直にいってしまえば、寿賀子にとって、ゆき子と真木の可愛さなどは、到底比較にもならないものである。ゆき子が、良人として真木を信ずるだけ、どうしても寿賀子にはその男が信頼されない。――真木は、彼女が自らの選択で、ゆき子のために見出してやった「婿」ではなかった。――彼等は自由に互に愛し合い、全く相互の意志だけで結婚したのであった。
こんな、感情の暗流は、当然真
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