ないか? お互に健康で、段々生活が確立して、仕事が纏まって来れば、これほど感謝すべきことはない」
「どういうのを、生活の確立したものだとお思いになるの?」
「それは」
ゆき子は、焦立たしげに遮った。
「私はね、生活の確立したものを、世間並に、小金でも蓄めて、いい旦那さん奥さんになったのを云いはしませんのよ。また、そういう確立を得るために、話す間も専門をする間も無いような生活をしたくはありません。――勿論、そんなのがいいって云わないとおっしゃるには極っているわ。――だけれど……」
真木は、幾度も、
「どうしたの? ゆき子」、「どうしたのだ」と云って、話を軌道に戻そうとした。けれども、ゆき子は、がむしゃらに頭からぐんぐん、ぐんぐん激情の誘うがままの所まで突進んでしまった。
「貴方は、ほんとに深く、完全に私を愛してやっていると自信していらっしゃるでしょう? だから……だから……私の感じる不満や、苦しみは、皆、私ひとりの我儘だの子供らしさだのに片づけておしまいになる。――どうしたらいいの? 段々、段々心が殺されて――どうなるの? 誰に云ったらいいの? 貴方にほか持って行きようがないのに……
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