い。その夫婦の間に、見えず、聞えず保たれている精神的な諧調、一つが何かを感じれば、また他の一つも、同じ興味、一つになった自然さでそれに相呼応して行く自由な朗らかさを、ゆき子はさながら餓えた犬のように羨しく眺めたのである。
「勿論、御飯を今にする、否、後にするという位のことなら云うことはない。また、理論的に、あれはこうあるべき[#「あるべき」に傍点]ことだ。あり得べからざる[#「得べからざる」に傍点]ことだ。という風に押しつめて行っても一致はするだろう。けれどもこのように、気持そのもので楽に何処までも交響して行くようなことが、果して我々にあるだろうか?」現在、自分はその点でつきない不満を感じているのではないだろうか。――
やや暫の沈黙の後、ゆき子は、はっきりとした声で、
「貴方」
と真木を喚《よ》びかけた。彼女の調子のうちには、どうでもよい場合の、当然な暢やかさがなかった。真木は振返った。
「何?……」
「話しましょうよ」
真直に彼を見ている彼女の眼を眺め、真木は、「何だ」と云うように、また紙に向った。
「話したらいいだろう。いくらでも、こうやっていて聞えるから」
「それじゃあ話した
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