っているのに心付いて、頻りに種々質問した。
「どうしたの一体。――こっちに来たらいいじゃあないか、何にもしていないのなら。チーアアップ、チーアアップ!」
ゆき子は、それでもと、自分の部屋に引籠るほど依怙地《いこじ》になれなかった。
彼女は、良人の机の傍に坐った。そして、まだ箒目の新しい庭を眺め、遠くには手摺りに日を吸って小布団などの乾された二階家を木間隠れに望みながら、また、雑誌の続きを読み始めた。
それは、昨今の著しい社会的現象である住宅難を背景として、それに人間が、善い心はよいなりに、悪い心は邪悪ななりに、どんな交渉を持つかということ。一つの家が、精神と肉体との棲家として考えられた場合、または、悪辣な利慾の的とされた場合、決して単純に、木と石と泥とで組立てられた「家」だけの影響には終らないという意味等を、教養のある落付いた筆致で描かれたものなのである。
前よりは増した感興で読み続けて行くうちに、ゆき子は種々な感に打れた。或る処では、物の観かたの非常な類似に、或る場所では、描写の美しさに。また、或る箇所では、今の自分の気分で見ると、余り順序よく、一種の型の「正しさ」に落付き納
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