解っている。若し、また後からせかせかしたことを非難するなら、詰り彼の、マター・オブ・ファクトな性格を持ち出さなければならないだろう。
彼が、満足し、安定を感じているとしても、普通の意味からいえば、充分そうあるべき生活の条件が揃っている。――ただ、自分の満たされない心が苦しいのだ。それが、墨を吐く。若し、真木の偶然の素振りが、それほど自分の胸を痛めたのなら、もっと自分は寛大にならなければいけないのではないか? 若し、性格によるものなら――誰が彼を愛し、選んだのだ。ゆき子は、無益な衝突は避けたく思った。が、それには、こんなに黙りひっそりとした状態が長く続くことは危なかった。
ほんとに心が愉しく愛に満ちている時は、どんなに自分が活々とし、快活であるかを知っているゆき子は、このような状態の底に何が潜んでいるか、はっきり知り、恐れたのである。けれども、それが捌《さば》ける適当な機会は与えられもせず、見付かりもしなかった。長い間懸りながら、彼女はほんの僅かしか読み進めず、当もない考のうちに戸惑っていたのである。
順繰りに遅れた昼餐が終ったのは、殆ど三時近かった。
真木は、彼女の何か様子が異
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