なさが感じられるのである。
彼に手伝い、相当な受け答えはしながら、ゆき子は、心だけが傍へ出て、淋しく凝っと自分等を見守っているような心持がした。
差し向いの夕飯後、彼等は散歩がてら、小さい土産物を持って、×町へ行った。そして、十一時頃、低く寝鎮った街なかを、睦しそうに肩を並べて帰って来た。
併し。――
翌日、遅めな朝飯が済むと、日向で新聞を見ている真木に、ゆき子は、
「今日はおいそがしいの?」
と訊ねた。
「僕? そんなにいそがしいことはない――何故?」
「じゃあ緩《ゆっ》くり話していらっしゃれて?」
「さあ……」真木は、がさがさと大きな新聞を畳みなおした。
「緩くり話すって――もうそんなに休もないからね、今日は一つ×県へ礼を出したり、あっちこっちの返事や何かを書かなくちゃあ……」
「――家にはいらっしゃって?」
「いますとも! 用がなかったらこっちに来ていればいい」
真木は、やがて、明るく日の差し込む机の前に坐を構えて、徐ろに紙や封筒を揃え始めた。それを見て、ゆき子も立ち上った。そして裏合わせになっている自分の部屋に入って、静かに境の襖を閉めた。そこは、北向の三畳間であっ
前へ
次へ
全61ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング