、おかあさまに、絶望されるのは、一番堪らないわ、全く……」
自分も涙に濡れながら、ゆき子は、そっと湿った後れ毛を母の頬から掻きのけた。
三
××大学から、真木宛の「速達」が廻送されて来たのは、丁度それから間もない午後のことであった。
亢奮の後の疲労と深い憂愁とで、ゆき子は、ぼんやり畳廊下の柱に凭《もた》れながら、考えに沈んでいた。
彼方では小さい妹が、首を振り振り力を入れてオルガンを踏みながら、あどけない歌を唱っている。素絹《すずし》のような少女の声と、楽器の単音が、傾いた金緑色の外景とともに、微かな寂寥を漂わせる。
彼女は、今更のように、複雑な人間の愛を思っていた。
そこへ、女中が来た。そして思いがけない「速達」が手渡しされたのであった。
葉書は、始め彼等の家の方へ配達されたのを、隣家の好意で、また×町まで廻されたのだそうだ。何か、新入学生資格詮衡のことに就て、委員である真木が、明朝十時から、是非とも出席を要する会議の通知なのである。
ゆき子は、その場合、特別な懐しさを感じながら、手にとって、表記の真木潤一という宛名をながめた。それから、また改めて
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