こと?」
 寿賀子は、全く、この言葉に打れたように見えた。
「真木さんのことになると、お前は気違いだよ。どうせ……どうせ」急に声が力なくふるえた。「自分で好きこのんで結婚なんかして、それっきり仕事も出来ないような女なら……どうせ、それだけに生れついているんだから……」
 唇の色が変り、涙が流れ出すのを見ると、ゆき子は、堪らない気持になった。
「おかあさま!」
「いいよ、いいよ、放っておいておくれ」
 寿賀子は娘の手をよけて横を向きながら袂を顔にあてた。
「どうせ……私が親馬鹿で……わたしが、ばかだったんだろうよ!」
 激しい歔欷に見かねてゆき子は母の肩を抱いた。
「ね、おかあさま、聞いて頂戴。おかあさまはね、私が、一生懸命に仕事をする気にもならないで、のんべんだらりと真木にこびり付いているとお思いになるから、そんな風にお思いになるのよ。私だって決して平気じゃあなくってよ。どうにかしてやりたいと思っているんじゃないの」
 ゆき子は、涙がせき上るのを感じた。
「私だって、仕事も出来ずに生きていようとは思わなくってよ。ね。おかあさま、信じて頂戴よ。何か遣れる人間だということを信じて頂戴よ。ね
前へ 次へ
全61ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング