されると同時に、自身も所謂矩を越え得ず、経済機構の逼迫につれ反動的な力が増すにつれ、いつしかそのために利用される存在とならざるを得なかった。
 お祖父様がお祖父様だから、というところから強制され、生じる無理は、家庭を支配する空気の中に二六時中何か否定的方面の作用を営んでいることは、誰にも推察される。良子嬢は、その総体の生活気分をひっくるめて「面白くない」という表現を与えている。
 うちがそういう事情で面白くない。面白そうなところと目されたのがカフェーであった。小市民階級の娘たちが、うちが面白くないので、飛び出して、例えば映画女優になりたいとか、ダンサーを志すとか、いうことは屡々《しばしば》あり、そこには客観的に見た当否は別とし、自身の才能についてのぼんやりした選択が認められる場合が多い。よほど質の低い、地方からポット出の十八九の娘ぐらいが、カフェー女給は面白いと単純に考える可能性をもっている。いくら職業をさがしてもないから、到頭食うために女給になったという若い女は数多く、それは現在の経済危機の増大につれ増加して来ている、別箇の問題であると思う。
 良子嬢が東郷元帥の孫としてのつまらない
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