力でない以上、対手かたの条件との相対的な関係というものが大きい作用をしている。
あの時分のロシアは、ヨーロッパの眠れる熊と呼ばれた。眠っている、然し吼えて立ち上ったらどのような力を振うかもしれぬというのが、広大な国土の潜勢力に対する列強の予想であった。
それに対して日本は、今日と全く違った目安でヨーロッパ諸国からは見られていたのであったから、イギリスの力を勘定に入れてもこの取組は、世界の注目の的となるのは当然であったろう。
ロシアの艦隊が、その実質にはツァーの政府の腐敗を反映して、どんなものであったかということは、ソヴェトの海洋文学の作者ノヴィコフ・プリボーイの近作「ツシマ」が、私達に雄弁な描写を与えている。
アドミラル・トーゴーの勇名が世界に轟いたのは、それらの内的外的の特殊な時代的特徴の濃い諸要点の結合の結果であった。元帥ほどの人物が、そこを見落していなかったことは、彼の日常生活の簡素な心がけや、歴史の上に箇人的武勇を誇示することを嫌ったというところにあらわれていると見ることが出来る。
ところが、元帥をかこむ社会関係においてその心持は、常に十分活かし得ないで、とかく偶然化
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