花のたより
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)所謂《いわゆる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)悧※[#「りっしんべん+發」、読みは「はつ」、570−16]な
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 シルビア・シドニーが一人二役を見せどころとして主演した「三日姫君」という映画があった。外債募集のためアメリカへやって来た何とかいう世界地図にものっていないような弱小国の麗わしい姫が、ニューヨークへついて間もなくオタフク風にとりつかれてしまったので、その身代りを瓜二つな容姿をもった一人の貧乏で悧※[#「りっしんべん+發」、読みは「はつ」、570−16]な失業女優がつとめて、終りには目出度大新聞の若い社主と結婚するという筋であった。
 最近日本では、その筋書とは逆な侯爵令嬢の十七日女給ということが、現実の社会で行われた。その侯爵令嬢が、ほかならぬ故東郷元帥の孫娘であったことは、世間の視聴をそばだてしめた。
 良子嬢が、浅草のカフェー・ジェーエルで、味噌汁をかけた飯を立ち食いしつつも朗らかに附近のあんちゃん連にサービ
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