フです。私は、それをとやかく云う権利はない。
英一 (呟く)何だか不安だな。恐ろしいことになりそうだ。奥平さん、どうか、僕にだけ、貴方の取ろうとなさる方法を話して下さいませんか。ひどく不安心です。
奥平 私が、自分の心持なり考えなりを、小説家のように巧く云い表せれば、何も面倒はないのです。私は、喋れない。思ったこと、考えたことを実行するだけだ。また、それでよいと思っています。黙っていて解ってくれないような者に、何も自分から説明する必要はない。――君は、とにかく私の信頼する一人の友人として、自分の責任と思うところを果されたのだから――どうぞ安心して下さい。なるようにほかならない。
英一 (猶圧迫を感じ)けれども……
奥平 人生は、快楽のために出来ているものではないのです。生きている間じゅう、苦しまなければならないのが、人間だ。与えられた杯なら、飲まなければならない。
英一 どうぞ、貴方もみさ子さんも傷つけるようなことはなさらないで下さい。――実際、僕は、何もみさ子さんまで……
奥平 ――(陰気に光った眼で、じろりと、臆病な英一の顔を見る)
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