ニいうことに就て、深い疑や苦しみを味うようになるだろう。そうしたら、始めて、私の、あなたに対して持っている心持も理解して貰えるだろうとね。
みさ子 (疑わしそうに、凝っと谷の顔を見守る)私、自分の苦しみや寂しさを、たとい、誰にでも、利用されてはいられなくってよ。
谷 まるで異う。一つの道から、もう一つ先の、明るい、輝やいた路へ出る手助けを、僕ならさせて頂けると信じていたのです。僕の、あなたに対する愛は――云うことを許されれば――恐らく、あなたの御良人のように、所有慾から生れたものでもなければ、英一君のように、自分の無力を偽善で被うたものでもありません。あなたという人を心にも体にも、美しさ、愛らしさの絶頂に置いて見たい。何からも自由にし、私が陰から照らす光りで、あなたを、漂う金色雲のようにしてあげたいのです。
みさ子 (不快と畏れとを示し)貴方はいやね。そういうことをおっしゃるために、わざわざ薔薇をだしにお使いになったの? 私、こそこそ話は大嫌いよ。それに(力を入れ)――私は、ちっとも、貴方になんか助けて頂こうとは思っていなくってよ。また貴方こそ、私をほんとに愛して下さる方だとも思えや
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