えしである。明治維新は、日本において人権を確立するだけの力がなかった。ヨーロッパの近代文化が確立した個人、個性の発展性の可能は、明治を経て今日まで七十余年の間、ずっと封建的な鎖にからめられていた。したがって、西欧の近代文学の中軸として発展してきた一個の社会人として自立した自我の観念も、日本ではからくも夏目漱石において、不具な頂点の形を示した。リアリズムの手法としては、志賀直哉のリアリズムが、洋画史におけるセザンヌの位置に似た存在を示してきた。
一九一八年第一次世界大戦終了の後、日本にも国際的な社会変化の波濤がうちよせ、人間性の展開および文学の発展の基盤としての社会性の問題がとりあげられた。けれども、徳川末期から明治へと移った日本文学の特色の一つとしての非社会性がつよい余韻をひいていて、文化・文学の全面につねに反動の力が影響しつづけた。
ところが十四年前(一九三一年)日本の軍力が東洋において第二次世界大戦という世界史的惨禍の発端を開くと同時に、反動の強権は日本における最も高い民主的文学の成果であるプロレタリア文学運動をすっかり窒息させた。そして、日本の旧い文学は、これまで自身の柱とし
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