役所から、獄中からまで伝えて来ている。その点で、この二百頁に満たぬ一冊の歌集がきょうの日本の歌壇に全く新しい価値をもって現れているという渡辺さんの言葉は確に当っていると思われます。そして、それぞれの歌がそれぞれの作者の生活の面を反映させているなかにも、私が心を動かされたのは、「工場から」(岡村浄一郎)、「工場の歌」(平野大)、「脂」(速水惣一郎)、「給仕修業」(烏三平)などのように、今日の日本に生きる勤労大衆の生活の歴史的な一つの道行き、過程をうたったものが、一つ二つでなくあることです。私は昔万葉集や金槐集(実朝の歌集)などを読み、なかなか感心したものです。きょう、短歌を作ろうとする人々にとって、これらの古典はやはり読まれ、研究されるべきものでしょうが、それは全くこの『集団行進』に集まっているような作者たちが生活そのものによって現代の社会に要求し示している新しい素質・主題を益々つよく冴えたものとして活かすためにだけ、学び、研究されるべきでしょう。芸術的な表現の力が、まだどの作にも十分具わっているとは云えないという序文の言葉は正しいと思いますが、私が短歌の素人として読んだ感じでは、例えば
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