科学の精神を
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)横《よこた》わる
−−
科学への関心が、いくらか流行の風潮ともなって、昨今たかめられて来ている。いろいろの面から観察されることだろうが、私として頻りに考えられることは、そういう今日の傾向のなかで、科学知識と科学の精神という二つのものが、どんな工合に互の相異や連関を明らかにされて来ているのだろうかという点である。部分的にとりあげれば多極な問題も、根源に横《よこた》わる鍵はこの二つのものの活きて動くところにあって、特に日常生活に即した面ではこの点が非常に大きく深く作用しているのではなかろうかと考えられる。
科学的な学識や知識が、素人が考えるより遙かに科学の精神とは切りはなされたままで一人のひとの中に持たれているという場合も、現代の実際にはある。
或る婦人があって、そのひとは医学の或る専門家で、その方面の知識は常に新しくとりいれているし、職業人として立派な技量もそなえているのだけれども、都会人らしい、いろいろの迷信めいたものも一方にそのままもっていて、それは決してやめない。科学の知識は、極めて局
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング