うちではそういう不器用なハンダづけをとび越して、科学の精神そのものの道をとおって美であり善であるところへ迄も到達する可能を示している。母親の愛の感情が拡大され得る場合について考えても、これは私たちにとって決して虚構な希望ではないのである。
 パストゥールの努力を描いた「科学者の道」という映画が今日なお私たちに与えている深い感銘も、この点にふれているからこそのことであろう。パストゥールが、科学の示した真実についてどこまでも譲歩せず屈従せず其の真実性を守ったことから人類への福祉はもたらされたのだし、感動的な美がその物語のうちに生じたのであって、万一あれがクリスチャン・サイエンスの映画であったら、何の美しさや感動があり得ただろう。
 科学教育のことが云われるからには、有益な科学の原理的な知識とともに、無私なよい観察者としての能力と、独創性を発揮するに足りるだけの周密、動的な推理の力とを二本の脚とする科学の精神が、あらゆる男女の心に培かわれてゆくことを願っていいのであろうと思う。



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   198
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