くても、今日の空気の何かを学生には感じさせるのではないだろうか。ちょいと気のつよい兄さんは、その妹に向ってこんなしっぺいがえしもするのではないだろうか。何しろ外じゃ立っているんだからね、せめてうちの中でぐらい権利があるよ。お前、かわれよ、と。
小さなこんなことでも、今日の青年の我知らず吐露している心理としてそこに注目するべき何かがある。日本の家庭の中に根づよい男の威張りや主張の癖に対して、こういう今日の若い人の心理は、事実上決してより新しく寛闊な家庭生活の習俗を生み出してゆくモメントとはならないのである。
菓子を食べるにしろ、店の飾窓に大きいパイが並んでいて家へみんなの土産にしたいと思えば、店で食べるだけなら売るというのが近頃の風俗である。しかたがないから彼はそこで一人で食べてしまうだろう。家庭では母を先頭としての女性たちが、毎日苦心して台所の運用をやっていて夜の茶の間の話題もそれで賑わう。すこし年嵩な青年たちはこういう話をきくにつけても身体の健康な、家政になれた女性を妻としなければ、とてもこれからは、やって行けないという感想を抱くだろうと思う。その場合、家政のうまさということの内
前へ
次へ
全6ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング