やつれた顔を物懶《ものう》げにまげて、お幾を見た。
「あのねお恵さん私――フト今頭に浮んだことなのですがね、あなたが若しやひょっとして、神様のお怒りにでも触れるようなことをなさった覚はありゃあしまいかと思ってね。神様というものはもともと……」お幾はチラリと相手を偸見《ぬすみみ》た。
「決して罪のない者に飛んだ不仕合なんかはお授けにならないものなのですものね、だから、若しあるなら早く――」
「神様のお怒りに触れる――何をおっしゃるんでしょう! お幾さん」
 お恵さんはぼんやりと自分に凭《もた》れていた二人の子を突除けるようにしていずまいを正した。急な緊張に驚いて、我知らず面をあげたお幾は、思わず身が縮むような何物かを、お恵さんの瞳の裡に読み取った。
 お恵さんは感違いをしたのだ、ひどいこと! いやな、いやなこと! 本能的にお恵さんが思ったことを直覚するとお幾は、サッと顔の色を変えながら、あわててお恵さんの膝に手をかけた。
「まあお恵さん、どうぞ! 私決してそんな積りで云ったのじゃあないのですよ、ただ、ね、お恵さん、私信心しているものだから……」
 救いを求めるような手を、お恵さんは静かに
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