箝《あては》めて考えて見ずにはいられなかった。つまり、お恵さんの身に現れて降懸って来たこの度の不幸は、どこかに神の御旨を奉じなかったという因が在って起った果ではあるまいかということになるのである。
 そう思って見ると、お幾には総てのことが明瞭になるような心持がした。
 お恵さんの不仕合わせが神のお怒りの結果だとすれば、彼女は神様に懺悔してお詫をしさえすればよいのだ。そうすれば神は許してこの先の不幸は取除いて下さるに違いない。そう心附くと、お幾はもう黙って次に来る不幸まで負わせてはいられない心持がして来た。自分でなくて誰が、そんな先々のことまで案じてあげる者があるだろう。
 今ここで天理王命のお慈悲にさえ縋れば将来総てはよくなるのだ。
 お幾は、やがて涙に湿った手巾を膝の上で石畳に畳みながら、
「お恵さん、誠にこの度は飛んだことで何とも申しようがございません。けれどもね、今もこうやってつくづく考えて見ると、これはどうしても只事ではないという心持がして、仕様がないのですよ」
と、改まって口を切った。
「ほんとにあまり急でしてねえ……只事ではないとおっしゃると?」
 お恵さんは一夜でめっきり
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