つも、黒い瞳で自分を見守っている娘のことを思うと、ふと弛緩した信仰の重大さが、新しい威力で、津浪のように迫って来た。
「私もね」
お恵さんは、静かながら、偽りではない声を出した。
「決して、疎そかな心でいるのではありません。けれども、なにしろ弱いのでね――本当に……深い信仰にさえ入れないのかと思うと、こわいようになりますわ」
「それがいけないのですよ、お恵さん。自分で弱い、弱い、と云うのは、まるで、達者になろうとしないで、弱いのを、先に立ててついて行くようなものですもの。忘れるのですよそんなことは。そして、一心不乱に、身上《みじょう》助けをなさるの!」
頭を使って、これ等の言葉を聞き分ければ、どこかに、お幾の、自覚しない身勝手が感じられたかもしれない。然し、誰一人、親しく自分を鼓舞してくれる者もなく、確かりなさい、と、肩を叩いてくれる者も持たないお恵さんにとって、これは、一方ならない、励しの言葉であった。
とにかく、お幾の元気が、細そりと、蒼白い、お恵さんの肉体を貫いて、一種の電気でも通じるように見える。次第に、彼女自身も亢奮し、覇気を持ち、踏み出した道なら退くまいという勇気が、
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