一の理解者であるべきお恵さんを説服し得ないということは、二人の性格を知り抜いている者には、一層不思議なことなのであった。
 お稚児に結って、小学校に通っていた頃から、お恵さんは痩ぎすな、淋しい静かな子であった。けれどもお幾の方はまるでそれとは反対で、何時でも自分の仲よしを、或る程度まで思いのままに操縦する活気を持って生れていた。いいにも悪いにも、自分を立てて来られたのが、このこと許りは思うように行かないので勝気なお幾はきっと残念なのだろうと、傍の者は思っていたのである。
 お幾にしても、そういう気分がないことはなかった。生れた時から不幸を背負わされて出て来たようなお恵さんを、彼女が物質的にも精神的にも補助して来た友情は、決して並大抵のものではない。それと同時に、自分の深い友情に対して、長い時が経ると共に湧いて来た一種の矜持ともいうべきものが、皆の言葉で何となく権威を失うような心持もされるのである。然し、「お恵さんを云々」という一句で彼女がそれほど悄然とする理由は、決してこれ許りではなかった。それに就ては、さすがのお幾も冷汗を掻かずにはいられないような思い出が、誰にも語られずに、でっぷり
前へ 次へ
全33ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング