》みなどというものは、矢張りどこかに、神様の御心があるのですね、まあまあこれで、やっと私も一つ御奉公が出来ました」
と、吹聴する。
誰の目にも、彼女は悪意のない得意の絶頂にいると見えた。今まで何かにつけて、自分の鈍い感化力を嗤《わら》っていた友達も、もう云うことは見出せまい。あんなに難しそうに見えていた一大事を、あれほど手際よくしおおせられようとは思わなかった。
それ等の快感で、お幾の胸の中では、ここまで来るにお恵さんが、どれほどの涙と苦痛とを経たかなどということは、忘れるともなく忘られていたのである。
精力家で、半日と凝っとしていられないお幾は、今までも、ちょくちょくお恵さんの家を見舞っていた。けれども、友が息子を失ってから、まして、信心を始めるようになってから、彼女の訪問は、一層その度数を増した。辞退するお恵さんに、
「何、構うもんですか、外の空気を吸うだけ、私の体にだって好いのですもの」
と、彼女は三日にあけず、美しい黒塗の俥を止めるのである。
丁度土曜日に当る、或る朗らかな昼頃、お幾はいつものように、友の門前で俥を降りた。
片手に、好物の「けぬき鮨」の折を持ち、曇硝子
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