たような頬の色を、どうして見のがすことが出来よう。
「お恵さん、あなたは駄目ですよ、そうやって独りで思い出しちゃあ泣いていらっしゃるんだもの。さあさあ、もうそんな縫物はおやめおやめ、そんなものを持出すから尚気が滅入っておしまいなさるんじゃあありませんか」
 お幾は、言葉で云い表せない親切をこめた荒々しさで、お恵さんの手から、派手な色の美しい小布を奪いとった。
「何か気を紛らすようにおしなさいましよほんとにあなたは……」
 お幾はあわてて洟《はな》をかんだ。
 彼女の姉らしい叱責にすなおな微笑で答えながら顔を擡げたお恵さんの眼には、悲哀と信頼とが混り合って輝いて見えた。彼女は、やがていつもより一層しんみりとした口調で、ぽつぽつと話し出した。
「この頃はね、外は寒いし、家にいても気分が捗々《はかばか》しくないので、ついこうやって炬燵にずくんだままで随分いろいろなことを考えて見ました。今までは何や彼やごたごたして一度も考える気で考える時がなかったようなものですものね」
 お幾は何と云ってよいのか分らずに蒼白い小さいお恵さんの面を眺めた。
「考えて見ると、好い加減な暮し方をして来たのだと思いま
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