すよ。ほんとに自分で気のつかないほど好い加減なのですね。何でも彼でも上面だけ考えていたのですもの。――いつかあなたがおっしゃいましたね、あの広田が亡くなったのは只事でないって……」
「あれは、お恵さん私……」
「いいえ大丈夫。決してそういう積りじゃあありませんの、ほんとにね広田のなくなったのも、誠之が死んだのも、この頃では何か訳のあることなのだと気が附き始めたのです。あの時こそ、意地であなたにたてついたけれどもね」
 お恵さんは寂しい笑顔でお幾を見、眼をふせてじっと両手で捧げるように持った茶碗の中を眺めた。
「あなたも御存知の通り、広田は正しい人でした。誠之だって、私の眼から見れば人並よりは何か違ったよいものを持って生れていたと思われます、それは勿論親の贔屓目《ひいきめ》かも知れませんわ。けれどもたとい贔屓目にしろ、自分が時には頭を下げるような児を、思いがけないことで取られて見ると――何か大変な手落ちをしたような相済まない心持が致します。あなたはお仕合せで、お子さんをお一人もおなくしになったことがないからお分りにならないでしょうね、けれども子供に死なれるのは――本当に辛いことです。自分
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