はフト瞳をかえして、最愛な友の面を眺めずにはいられない気分になって来るのである。
その日も、お幾は厚く着膨れた襟の下に同じ思いを抱きながら、お恵さんの門前で俥を降りた。
寒い日である。まだ二七日を過ぎたばかりの森閑とした家の中に、竦むようにしてお恵さんは炬燵に当っていた。
心安だてに、案内も待たず鴨居につかえるような体をずっしりと運んで来たお幾を見ると、彼女は思わず縫物を手からおいて悦んだ。
「まあ丁度好いところへ来て下すったこと。お寒いのによく来て下さいましたね、さあこちらへ。冷えるからお厭でなかったらあなたもお当りなさいな。淑子さん、あついお茶を入れて上げて頂戴」
お恵さんはほんとに嬉しそうに、拡げた縫物を片寄せながら、わざわざ肥ったお幾のために凭《より》かかりのある壁際の席をあけた。
「毎日毎日しぐれたお天気ですことね、しかたがないからこんなことをしております、木魚のお布団ですよ、綺麗でしょう?」
お恵さんは今まで縫っていたらしい友禅模様の小布を抓《つま》み上げて、ヒラヒラ動かしながら微かに笑った。
けれども、友達の赤くかさかさになった眼の廻りや、濡れたままこわ張っ
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