り、後は振向こうともしない冷酷さに義憤を発したお幾は、泊りがけで気の毒なお恵さんの片腕になった。
 物に熱中し易い彼女が、全心を焔のようにして掛った好意によって、お恵さんは辛くも愛子の葬儀を滞りなく済すことが出来たのである。いよいよ葬送もすんだ晩、一きわ寥しい部屋に二人が抱き合うようにして流し合った涙は複雑なものであった。けれども、総ての複雑さを一つに纏めて、結局の処から戻って来るものは、お互の限りない友愛に対しての悦びと感謝とであった。
「ありがとう、ほんとにお世話様になりました」
 そう云いながら頭を下げるお恵さんの手をとって、お幾は、さも飛んでもないというように振った。
「まあお礼! お礼なんかはよその人にして下さい」
 こんな時彼女の胸には、等しく深い感激が漲った。けれども、何か、もう一歩お幾には足りないもののあるのを争うことは出来なかった。
 彼女の胸にはどうしようもないうちに来てしまった第二番目の禍を送って、更にその次の不幸が危ぶまれていたのだ。が、然し口に出してそれを警告する勇気はない。二人が打とけた心持で話し合っている時も、泣き合っている時も、そのことが心に浮ぶと、お幾
前へ 次へ
全33ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング