た趣があったので、知名な俳優や物持ちが別宅などを建てた。石川は、そのようにしてだんだん××町が開けて行く草分から町の入口――よく小さい別荘地の入口に見るように、半町ばかりの間にかたまって八百屋、荒物屋、食糧品屋から下駄屋まで軒を並べた場所に住んだ。往来の右手の小高いところに木造のコロニアル風の洋館があって、それが永いこと貸家になっている。その辺からもう町の大通りである桜並木が始っていた。天気の好い冬の日など霞んだように遠方まで左右から枝をさし交している並木の下に、赤い小旗などごちゃごちゃ賑やかな店つき、さてはその表の硝子戸に貸家札を貼られた洋館などを見渡すと、どうやら都離れて気が軽やかになり、本当の別荘地へでも来たような気がしないこともない。
 石川は、無人島でアメリカへ売り込む鳥の羽毛を叩き落すのをやめてから、或る請負師の下に使われるようになった。その親方は手広く商売をし、信託会社にも関係があった。今××町の中にある凝った建築の邸宅で、その請負師の仕事が大分ある。あらかた建つだけの家が建ち、信託会社も請負師も住宅地から手を引いた。後に石川だけ遺った。先の親方時代からの縁故で、大工、植
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