牡丹
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)纏《まとま》った
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)とんでもないことを仕|出来《でか》した
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ドーカ[#「ドーカ」に傍点]助けとくれ!
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人間の哀れさが、漠然とした感慨となって石川の胸に浮ぶようになった。
石川は元来若い時分は乱暴な生活をした男であった。南洋の無人島で密猟をしていたこともある。××町に住むようになって、いろいろな暮しを見ききする間に、偶然なことから或る家族、といっても極く特別な事情の一家と知り合った。
××町というのは、東京の西北端から、更に一里半ばかり田舎に引込んだ住宅地の一つであった。××町の入口を貫いて、或る郊外電車が古くから通じていた。終点が何で、夏は有名な遊園地であった。或る信託会社と、専門家の間ではネゲティブな意味で名を知られているその電気会社とが共同で計画して開いた住宅地が××町であった。自然の起伏を利用した規則正しい区画、東と西の大通りを縁どる並木、自動車路など、比較的落付い
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