し、よき生活に導き合った一対の夫婦が、一人の子をも持たなかった場合、其等の人々の経た結婚生活の価値は如何う定められるべきなのだろう。

 彼等の運命より
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「自分が如何なる醜さを、彼女の前に暴露しても、彼女が其を可厭がらない事であった。彼女がよしそれに驚いたにしても 彼女の彼に対する無限な愛と、彼女自身の中の『先天的罪《オリジナルシン》』とは快く其を宥すのだ。そしてそれが又彼女を暗黒的に喜ばすのだ。」
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 此は、人が快感を以て行なう寛裕と云う態度の中の、或点を考えさせるものではあるまいか、特に愛して居る者の間に於ては。
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女性と男性との差は、斯う云う心持に於ても何か異っては居ないだろうか。
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 ○彼等の運命の裡に於て、長与氏は、性慾を極端にまで厭うべき文字で呼んで居る。
「結婚した許りの夜と同じく獣の真似をして居た。」或は「獣的遊戯」と呼んで居る。然し、性慾は、或は夫婦間の交接と云う事は、左様云うような不正な、根本的に暗黒と、否定と、堕落とを意味するものであろうか。
 勿論、其にふける事は恐ろ
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