本能的な直覚と信仰とを持って居た。そして、現在一年余の結婚生活の経験に於て、其は仮令非常に短時間ではあっても、最初の自分の考えは、全然間違って居たものではない事を認めて来た。
 人は、自分の裡に未だ顕われずに潜む多くの力の総てを出し切る機会を持たなければ、其等力の実値を体験する事は出来ない。
 人は結婚によって、少くとも或種の力を自覚させられ、其に就て考慮と反省とを与えられると思う。情慾の力強さ、其の持つ歓びと怖れと悲しみの錯綜した経験などは、其に実際当って見なければ、其がどれ程まで霊と密接なものであり、畏るべきものであるかと云うことは分るまい。
 自分は、二元論者ではない。其故、或時代の人々のように、人間が――異性の間に於て、魂と魂との交通に於てのみ真実な愛の価値があるとは思わない。
 然し、結局に於て収穫と成るものは何かと云えば、経験の綜合から起る真理への進展である。そして、その真理は、只真理に憧れる事を知って居る霊のみが為し能う事なのだと云う事を、私共は忘れてはいけない。若し、子を産む事のみ[#「のみ」に傍点]が結婚の全的使命であり、価値であるならば、或場合、非常に相互の魂を啓発
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