るじゃないか。
エッダ (負けず)それは、お前だけが、そうと思っているんじゃあないの? 誰の眼で見ている?「お前の眼[#「お前の眼」に傍点]」じゃないの? 誰の耳で聴いているの?「お前の耳[#「お前の耳」に傍点]」じゃあなくって。お前の眼が私の眼と同じだっていうのは、ただ、お前だけがそう思う、というばかりよ。お前の頭が狂っていないって。
母親 エッダ。云うことをお考え!
エッダ (はっとする。が、強いて勢いよく)ほんとにそうじゃあないの? お前が見て、これに間違いはないと思う世界の様子だって、どこまで真実か解りゃあしないわ。逆に立ったって、お前は、お前の頭[#「お前の頭」に傍点]でほか、見るも考えるも出来やしないんだもの。
ヨハネス ――(不安を面に漲し、凝っとエッダの顔を見る)――エッダ……エッダ――お前は(深い感情を以て)エッダに違いないだろう?
エッダ (笑い)知らなくってよ! お前が自分を猿じゃあないと思い込むと同じに、まるで異ったどこかの婆ちゃんを、エッダだと思っているのかもしれやしないわ。
ヨハネス (混乱した顔になり)ああエッダ。(焦々しく)はっきりしてくれ。ね(エッダの
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