見合わせ、忍笑い、肩を竦《すぼ》めてチロリと舌を出し、母親のところへ駆けつける。鉢を受取り、長|卓子《テーブル》の上に置き、
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エッダ さあ、お殿様! 御飯を召上って下さい。
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ヨハン、楽しそうに卓子につく。エッダ、駆けて棚からパンやその他二三の食物を運んで来、ヨハネスと向い合って、卓子の上に両腕をかけ坐る。ヨハネスの食べるのを頭を曲げ息をつめて見守り、一|匙《さじ》が終ると、意気込んで訊く。
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エッダ どう? 美味しくなくって?
ヨハネス まるで御馳走だね。どうしたの?
エッダ (唾をのむようにし)美味しいでしょう? 今日はね、昼からすっかり砂糖煮を拵えたの、その余だわ。
(一寸母の方を偸見《ぬすみみ》、悪戯《いたずら》らしく囁く)私、林檎《りんご》のスープが大好きでしょう? 阿母さんは儉約家《しまりや》だから、ちっとでも傷のないのは、皆丸煮にするって云うのよ。仕様がないから、私、そうっと地べたにおっことしたり、噛みついたりして、駄目を出したの。お蔭で、お前までこんなスープにありつけたんだわ。
ヨハネス 有難うよ。
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