ついた木製の長卓子、腰掛、櫃《チェスト》等置かれている。
正面の素朴な硝子窓から、透明な黄昏《トワイ》の光《ライト》が部屋に入り、横顔を浮上らせながら、エッダ、白い後までまわる大前掛けをし、くるりと髪を包む頭巾をかぶって、糸車を廻している。母親、チロチロと小さい焔の見える炉辺で、縫物をする。暫く沈黙。――
やがて、
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エッダ 阿母さん!
母親 何だい?(縫物の手を動かしたまま)
エッダ ヨハンがおそいね。……どうしたんだろう。
母親 ――あの子のことだから、また、野っ原に仰向いて、雲でも見ながら、腹の空《す》くのを忘れているんだろう。――大丈夫だよ。
エッダ ……(糸車の音が、四辺《あたり》に響く)だってもね、阿母さん。ヨハンはきっとどうかしていてよ、私が、ちゃんとこの胸で感じるんだもの。
母親 (笑い)お前の胸かえ? 要心おしよ、小さい娘っ子の胸と――
エッダ (強く)厭なの! そうじゃないさ。ヨハンは、死んだあの子のお父さんやお母さんを、このごろ頻りに思い出しているって云うのよ。
母親 (しんみりと)そうかえ? そんな風かえ?――可愛そうにね。……然し、思
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