しなおした。
朝子はそうなると、なお笑うだけで、パイをたべていたが、
「モダンだって幾通りもあるんじゃないの――少し話は違うけれど」
と云った。
全く、個人的に自己消耗だけ華々しく或は苦々しくやって満足している部と、それが一人から一人へ伝わり、或る程度まで一般となった現代の消耗が身に徹《こた》えて徹えてやり切れず、何か確乎とした、何か新しいものを見出さなくてはやり切れながっている人たちもきっとある。朝子は自分の苦痛として、それを感じているのであった。後者に属する人は、強烈な消耗と同時に新生の可能の故に、自分を包括する。更にひろい人間は、群を忘れることが出来ない。例え、それに対して自分は無力であろうとも忘れることは出来ない。
朝子は、考え考え珈琲を含んだが、不図、一杯の珈琲をも、自分達は事実に於て夥しい足音と共に飲んでいるのだと感じ、背筋を走る一種の感に打たれた。
朝子は、やがてぶっきら棒のように、富貴子に訊いた。
「いつか――あなたとだった? 底知れぬ深さ、っていう詩読んだの」
「さあ、……そうかしら」
彼女等のいるボックスを、色彩ではたくようにして入って来た若い一団に気をと
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