、ずっと母となった富貴子の態度に、好意を感じた。糸屋の飾窓に、毛糸衣裳をつけた針金人形が幾つも並んでいた。朝子はその前へ立ち止った。
「ちょっと――いらないの?」
「なあに――まさか!」
二人は、珈琲《コーヒー》を飲みによった。友達の噂のまま、
「結局一番いいのは、あなたなのよ、朝子さん」
断定を下すように富貴子が云った。
「私みたいに一時預け、全く閉口。預ってる手前っていうわけか、いやに遠廻しの監視つきなんですもの」
「それも、もう十月の辛抱でしょう!」
顎をひき、上眼を使うようにして合点したが、富貴子は急に顔を耀かせ、
「そりゃそうと、あなたの方、どうなのよその後」
と云った。
「何が」
「いやなひと! 相変らず?」
「相変らずよ」
「――うそ!」
「どうして? 私はあなたと違って正直に生れついているのよ」
「だって……ああ、じゃあ、そうなの、やっぱりあなたは偉いわね」
およそその意味が想像され、朝子はぼんやり苦笑を浮べた。すると、云った方の当人が、今度はそれを感違いし、意外らしく、胸まで卓子《テーブル》の上へのり出して、逆に、
「――そう?――大道無門?」
と小声で念を押
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