れと同時にぱっと電燈がついた。
「かえって来たらしいよ」
女中に云う幸子の声がした。
上り口へ出て来た幸子は大平を見て、
「ほう、一緒?」
と云った。大平は帽子の縁へ軽く手をかけた。
「相変らず元気だな」
「悄気《しょげ》るわけもないもん」
「はっはっは」
大平は、神経質らしい顔つきに似ず、闊達に笑った。
「いやに理詰めだね」
朝子は、赤インクでよごれた手が気持わるいので、先に内に入った。
「上らないの?」
「ちょっと尊顔を拝するだけのつもりだったんだが……」
「お上んなさい。――どうせ夕飯これからなんでしょう」
問答が朝子の手を洗っている小さい簀子《すのこ》の処まで聞え、遂に大平が靴を脱ぎ、入って来た。タオルで手を拭き拭き、朝子は縁側に立って、
「いやに世話をやかすのね」と笑った。
「本当さ。昔からの癖で一生なおらないと見える」
大平は、幸子と向い合わせに長火鉢のところへ腰を下しながら、
「まあ、お互に手に負えない従兄妹を持ったと諦めるんだね」と云った。
「――然し、実のところ、これから遙々帰って、お婆さんとさし向いで飯を食うのかと思うと足も渋る」
わざとぞんざいに、然
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