一太のように三畳にじっとしていないでもよいそこの息子であったから、土間の障子を明けっぱなしで遊んでいた。一太が竹格子から見ていると、忠公も軈《やが》て一太を見つける。忠公は腕白者で、いつか、
「一ちゃんとこのおっかあ男だぜ、おかしいの! チッだ!」
と云った。
「違うよ、男じゃありませーんよだ」
「じゃ何故ツメオって云うんだい、オの字のつくのは男だよ」
一太はぐっとつまって、
「だって女だい!」
と力んだ。
「男だよ。子ってのが女だよ、活動だって、ナミ子が女でタケオが男だよ、やーい見ろ、一ちゃん学校へ行かないから知らないんだ」
一太は憤慨して涙が出そうになった。学校へ行かないのだって平気であったが忠公にそう云われると口惜しかった。拳固を握りしめて、一太は、
「おっかちゃんにチンポコなんぞなーいよ、イーだ!」
とやりかえした。一太と忠公とは四尺ばかり離れたあっちとこっちで、睨めっこしたり、口の中に両方の小指を突こんでベッカンコをしたりして遊んだ。いい加減遊ぶと忠公はぷいと、
「あばよ、パいよ」
と云って引こむ。
一太は長いこと長いこと母親の手許を眺めていてから、そっと、
「キャラメ
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