ように、茶色に菊のついた紙で拵えてあったのに違いない。破けては貼り破けては貼り――それは一太も知っている。一太が去年始めて青森から母親と出て来てこの部屋の家に住むようになったとき、一太はまだ廊下や庭のある家で体を動かす癖をもっていた。
昼寝して寝がえり打つ拍子にウームと、一太は襖を蹴って、足を突込んだ。母親は一太をぶった。一太が胆をつぶした程、
「馬鹿!」
と怒鳴って、糊を一銭買わせた。そして、一番新しいつぎを当てた。
一太はそのまだ紙の白いところを眺めたり、色の変りかけた新聞の切れなどを読む。
「ブルトーゼ。アルゼン、ブルトーゼ。ヨードブルトーゼ。キナ、ブルトーゼ。グアヤコールブルトーゼ……ブルトーゼって何だろ、おっかちゃん」
「広告さ」
「ああそうか、どうりで人がついてるよ、人がいらあ。……ホイッポ……カゼ……ネツ……モリミョウ。おっかちゃん、ホイッポて何さ」
「しずかにおしよ、おばさんがやかましいよ」
飽きると一太は起きて、竹格子につかまった。裏が細い道で、一太の家と同じような一棟の家に面していた。一太の窓から見えるところが大工の家で、忠公の棲居《すまい》であった。忠公は、
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