云うような日、一太と母親とにはまた別な暮しがあった。稼ぎというのが正しいのだろう。やっぱりその仕事はきっと幾らかの金になったのだから。
それは訪問であった。玉子売りのときのように知らない家の水口から一太が一人で、
「こんちは」
と訪ねるのではない。母親がそのときは一太の手をひいて玄関から、
「今日は、御免下さい」
と、お客になって行くのであった。一太が一々覚えていない程、その玄関はいろいろで――大きかったり小さかったりで――あったが、その玄関が等しくツメオの小学校時代の友達や先生の家の入口だということは同じであった。ツメオは一太とその玄関から座敷に通された。一太の母は、家にいるときや、普通一太に口を利くときとはまるで違った物云いをした。
「このおばさまは、母さんが一ちゃん位のときからのお友達なのよ」
初めのうち、一太は驚いてその綺麗な装《なり》をして坐っている女の人を見たものだ。こんな女の人が、一太の始終見るような女の子で、またおっかちゃんもちびな子供で遊んだということが真に不思議であった。一太は極りの悪そうな横坐りをしてニヤニヤ笑った。
「あなたお幾つ? 家の武位かしら!」
「一
前へ
次へ
全23ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング