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「なあんだ、
 フフフフなあんだお前水だよ。水が流れてる丈だよ
 すっかりおどかされちゃった。
「まあそうなの? 流れてるの、水が?
 ほんとにいやあね何だろう私。
 そんならよかったわねえ私は又何かと思った。
「うまい工合だね一寸遊んで行こうよ、好いだろう。
「ええ、丁度おあつらえだわ。
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 二羽は、重い羽音を立てて飛び込んだ。
 サラサラした水は快く彼等の軟い胸毛を濡して、鯱鉾《しゃちほこ》立ちをする様にして、川床の塵の間を漁る背中にたまった水玉が、キラキラと月の光りを照り返した。
 バシャバシャと云う水のとばしる音、濡れそぼけて益々重くなった羽ばたきの音、彼等の口から思わずほとばしり出るよろこびの叫び。
 其等の種々な音をにぎやかに立てながら、彼等は堤の草の間をほじったり、追っかけっこをしたりして、四季の分ちなく彼等には無上のものである水を、充分にたのしむのであった。
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「ああさっぱりした。何と云っても水ほど好い気持なものはないねえ。
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 雄鴨は、青い色に美くしい頸を曲げたり延したりして羽根に艷をつ
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