つきといういでたち。顔に縦じわ非常に多く、すっかりあかのつまった長い爪、顔の色あかぐろく、やせる。
 西川氏の周囲には浪人ものが多く集って居る。なかに、九州の人で、帝大を卒業するときやめ、車夫になり、体がよわくなってから「梶棒をすて」今は知人に一斤ずつ米をもらったりして、働かなければならないと云うなら死ぬと云って、桃太郎主義を奉じて居る。
私「桃太郎主義って?」
西「――つまり桃太郎がすきんですね。この間九州から出て来ましてね、今このさむいのに、代々木の方で夜警をやって居るのですよ。夜中は震えますってさ。そりゃあひどく震うんですって。余り震えるからって、うちへ来なさいましたから古洋服だの靴まで貰ってよろこんでかえりなさいましたよ。偉いんですよ。気違いじゃあないんです。少し頭が変なんです。この間来なすった時、明治神宮の前できび団子でもこさえて売ろうかって云いなさるから、そりゃあ面白い、うんとおやりなさい、後援してあげましょう、と云いましたが、まさか、実際にそれをするのはいやなんですね。考案は、大きなのや小さなのや種々雑多なのを作って売ろうと云うのだったのですがね。」
 又、
「いいえ、真
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