す強さ、醜き強さ。まるで理路の立たない烈しさで怒鳴るのをきくと、自分はピアノをひいて居ても指の下でなる音がちゃんときこえず、こんな喧しい調和のない雰囲気からさっさとにげ出したいとさえ思う。ある理想の下に、そこに達しようとして争うならよいけれども、徒に水かけ論で高声を発するのはたまらなし。
◎子を持った女のすてばちな全身的な発裂には参る。この点、生物学的にも、ヒューモラスにも考えられる。
○下島、皆に馬鹿にされ乍ら母の性格を理解して、寛大にして居る。――強いところのあるところなどを――。
一九二三年八月
福井。スーラーブを書いて居るとき。
九月の八朔一日が来る迄、福井では午ねをする。十二時すぎから、二時頃迄。
○憧憬
二時に、寺の空かんを叩くような、空虚な貧しげな鐘がなった。
カンカンカンカン、音は次第に急調になり、せき込んで、遠くの暑い田の面、せみのなく樫の梢に淋しく反響する。
――○――
盆の永代経だとて、老人、黄色のかたびらをき、かさをかぶって寺に参る。
――○――
ブドー棚の下の涼み台、老人、冷酒をのみ
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