処かで働き廻って居る彼の音をきくと寛大な、寂しい、何処かに不愉快な微笑が湧いた。彼は、持って居る本でも何でも整理し、片づけ(読まず)勉強するべき本、場所を持って居る楽しみを繰返し繰返し味って悦んで居るのではないかと云う心持がする。
彼の生活の音、片づけが彼の生活!
彼の注意は、女のように外面に向ってばかり分配され、考えることも、することも、反省も、外からの刺戟がないと働き出さないごく受身なものと思われる。
他人のようにはっきりこれ等の点を考えると、元、私は何かの力でそれを更え、雄々しい、創造的な、自発力に満ちた人に代えたいと思い、焦れ、苦しみ、涙を出し、Aを苦しめた。今はもうまるでその点では自分と彼との生活の中心をきり離してしまった。
そして、淋しい、思いやりのある微笑を浮べる。
雲に映る
子供、母を失う、九つ位 男の子
夕暮、空をながめる
山のわきにきまって母の横顔そっくりの雲が小さく、一寸見ると見つからない程、然し一遍見つけると決して見のがさない鮮やかさで現れる。
或日、それが見つからず 子供翌日まちかねて見る。ある。きのうは母が居なかったので、――あ
前へ
次へ
全18ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング